新規事業の評価基準:同じ「3年目売上1億円」でも評価が分かれる理由

はじめに

「頑張って売上を立てたのに、経営会議で厳しい評価を受けた」

「隣のチームは似たような実績で褒められていたのに、なぜうちは」

新規事業の現場では、こうした納得のいかない評価に出会うことがあります。

私はこれまで、大手電機メーカーなどで新規事業提案制度の運営に携わり、独立後も多くの企業の新規事業に伴走してきました。

その経験から言えるのは、新規事業の評価が割れる最大の原因は、実績の良し悪しではなく、”会社の期待値”、すなわち「そもそも何のためにこの新規事業をやっているのか」が曖昧なまま進んでいることだということです。

本稿では、この期待値という評価基準の正体と、それをどう扱えばよいかをご紹介します。

新規事業の目的は、一つではない

「新規事業の目的は、新しい収益をつくることに決まっている」と思われるかもしれません。
しかし実際には、会社が新規事業に取り組む目的はさまざまです。

新規収益の創出。

既存事業の防衛・補完。

人材育成。

組織風土・文化の変革。

CSRやブランド価値の向上。

どれも新規事業の目的として実在しますし、複数が重なっていることも普通です。

問題は、目的が違えば、同じ結果でも評価がまったく変わることです。

たとえば、3年目に売上1億円という結果を考えてみてください。

会社の目的が「10億円規模の新規収益の創出」であれば、この事業はストップ判断の対象になり得ます。一方、目的が「次世代の事業リーダーの育成」であれば、担当者が顧客と向き合いながら事業を立ち上げた経験そのものが成果であり、継続判断も十分あり得ます。

同じ1億円でも、物差しが違えば「不合格」にも「合格」にもなるのです。

冒頭の「納得のいかない評価」の多くは、この物差しのすれ違いから生じています。

担当者は人材育成的な物差しで頑張り、経営は収益の物差しで見ていた。
それだけのことなのです。

この「会社の期待」の読み解きは、Udemy講座でも一つのセクションを割いている重要テーマです。

収益目的なら「規模と時間軸」まで揃える

では、目的を確認すればそれで十分かというと、もう一段の詰めが必要です。

特に目的が収益であるなら、「いくらの規模を、何年後に」という水準まで揃えなければ、判断はぶれ続けます。

10億円を期待されているのか、100億円を期待されているのか。
3年後なのか、10年後なのか。

この違いは、狙うべき市場の大きさも、検証のスピードも、投資のかけ方も、すべて変えてしまいます。10億円なら有望なニッチ市場が、100億円の物差しでは「小粒」と切り捨てられる。逆に、100億円を狙う布石の赤字が、10億円の物差しでは「不採算」と見える。

水準が曖昧なままでは、どんな実績を出しても、評価する側の”その日の気分”に晒されることになります。

私が審査に携わっていたときも、案件そのものの磨き込みと同じくらい、「この事業に会社は何をどこまで期待するのか」を経営側と言語化することに力を注ぎました。

期待値が言語化された案件は、たとえ途中の数字が苦しくても、議論が建設的に進んだからです。

期待値が曖昧なら、担当者側から言語化を仕掛ける

「うちの会社は目的を明確にしてくれない」と感じる方も多いでしょう。

実際、経営側から明確な期待値が降りてくることは、むしろ少数派です。
「収益も人材育成も風土改革も大事だ」という総花的な答えが返ってくるのが現実です。

そこでお勧めしたいのは、担当者側から期待値を”仮置き”して提示することです。

「現時点では、本事業の目的を新規収益の創出と置き、3年後に売上10億円を目標に検証を進めます」

と自分から言語化し、経営や上司の反応を引き出すのです。

合っていれば物差しが固定されますし、違っていれば「いや、そこまでの規模は求めていない」といった修正が入り、いずれにしても期待値が明確になります。

評価基準を相手に委ねたまま走るのではなく、評価基準づくりに自分から関与する。
これが、板挟みの中で消耗しないための重要な技術だと私は考えています。

そして、すり合わせた期待値は、必ず文書に残してください。

大げさな資料は不要で、要点を1枚にまとめ、報告資料の冒頭に毎回添えるだけで構いません。

期待値の合意は、時間が経つと双方の記憶の中で都合よく変形していきます。経営陣の顔ぶれが変わることもあります。そのとき、口頭の合意は何の力も持ちません。

「この前提で進めることを、いつ、誰と確認した」という一枚の記録が、事業と担当者の両方を守ります。

また、期待値は一度決めたら終わりではなく、検証の進展や市場の変化に応じて、半年に一度は見直しの対話を持つことをお勧めします。

期待値は固定するものではなく、更新し続けるものだからです。

おわりに

新規事業の評価は、実績×期待値で決まります。

実績を積み上げる努力と同じくらい、期待値を言語化する努力に時間を使ってください。

「何のためにやるのか」「いくらを、いつまでに」が揃ったとき、あなたの仕事は初めて正しい物差しで測られるようになります。


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