はじめに
「来期に向けて、何か新しい事業のネタを考えておいてくれ」
経営や上司からのこの一言で、テーマ探索が始まる。
多くの会社で見られる光景です。
指示は漠然としているのに、期待だけは大きい。
何から手をつければいいのか分からないまま、とりあえず流行りのキーワードを調べ始めてしまう方も多いのではないでしょうか。
私はこれまで、大手電機メーカーなどで新規事業推進を担い、独立後も多くの企業のテーマ探索に伴走してきました。
その経験から言えるのは、漠然とした指示は嘆く対象ではなく、“設計する対象”だということです。
指示が曖昧なのは経営の怠慢ではありません。
経営にもまだ答えがないからこそ、あなたにテーマの探索が任されているのです。
本稿では、漠然とした指示を、実行可能な探索の設計に変える手順をご紹介します。
まず、指示の裏にある期待値を確かめる
最初にやるべきは、調査ではなく、指示の解像度を上げる質問です。
確かめるべきは三つあります。
第一に、「領域の期待」です。
既存事業の周辺を想定しているのか、まったくの新領域も歓迎なのか。
第二に、「規模と時間軸の期待」です。
数年で数億円の事業を想定しているのか、10年後の柱を期待しているのか。
第三に、「成果物の期待」です。
テーマの候補リストが欲しいのか、検証済みの事業計画まで求めているのか。
私自身、経営陣の抽象的な期待と向き合ったとき、この確認を省いて走り出して苦労した経験があります。
「大胆な構想を」という言葉を真に受けて飛び地のテーマを持っていくと「現実的でない」と言われ、堅実な案を出すと「既存の延長だ」と言われる。
言われることが振り子のように揺れるのは、期待値が言語化されていないからです。
とはいえ、質問しても明確な答えが返ってこないことも多々あります。
その場合は、まずは仮置きしてきくことが大事です。
「まずは既存顧客に接する領域を中心に、3年で事業性を判断できるテーマを3つ探します」
と自分から提示し、反応を見る。
「いや、飛び地でも良いから、10年後の柱になるテーマを1年で検証してほしい」
白紙には答えられない経営も、たたき台には必ず反応してくれます。
探索を「プロジェクト」として設計する
期待値の輪郭が見えたら、探索そのものを一つのプロジェクトとして設計します。
押さえるのは三点です。
一つ目は、”探索の問い”です。
「何か新しいこと」を、「当社の既存顧客に今後大きな影響を与える変化は何か」「当社のアセットが新しい価値に変わる変化は何か」といった、自社との接点を含む問いに翻訳します。問いが決まれば、見るべき情報と捨てるべき情報が決まります。
二つ目は、”期限と刻み”です。
探索は放っておくと無限に続きます。「8週間で、検証に値するテーマ仮説を3つ言語化する」のように、期限と成果物の形式を先に決めてください。成果物は「選ばれた一つの正解」ではなく「検証可能な複数の仮説」で十分です。むしろその方が、この段階の成果物として正しいのです。
三つ目は、”中間報告の設計”です。
最終報告で初めて成果を見せるのではなく、2〜3週間ごとに問いへの答えの進み具合を共有します。探索の途中経過を見せることは、経営の期待値を調整し続けることでもあります。
「型」を持てば、漠然とした指示は怖くない
こうして見ると、漠然とした指示への対処は、発想力の勝負ではなく、設計の技術だと分かります。
期待値を確かめ、問いに翻訳し、期限と成果物を決めて回す。この型は、市場機会探索型のアイディエーションとして体系化できるものであり、私が研修でお伝えしているのもこの一連のプロセスです。
型を持つ前のチームは、指示が降りるたびに右往左往します。
しかし、型を持ったチームは、同じ指示を「いつもの探索プロセスを回す合図」として受け止められます。
この差は、探索を重ねるほど大きく開いていきます。
おわりに
「何か新しいことを」という指示は、無茶振りに見えて、実は大きな裁量を渡されている状態です。
裁量を生かせるかどうかは、探索を設計できるかどうかにかかっています。
次にあの一言が降ってきたら、すぐに検索を始める前に、まず期待値の質問と問いの設計から始めてみてください。
テーマ探索の景色が変わるはずです。
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