はじめに
「プレゼンは完璧だったはずなのに、その後が続かない」
「商談で相手を説得できたと思ったのに、決まらない」
大企業との商談を重ねるスタートアップの方から、こうした手応えと結果のずれをよくお聞きします。
私は大手電機メーカーで新規事業開発とオープンイノベーション推進を担当し、スタートアップからの提案を受ける側にいました。
その立場から見えていた景色を一つお伝えすると、あなたの提案の成否は、商談の場ではなく、あなたのいない会議室で決まっていました。
この事実を受け入れると、商談でやるべきことが根本から変わります。
大企業共創の急所である、社内で戦ってくれる人という考え方をお話しします。
あなたは、役員会議室に入れない
大企業の意思決定は、社内の会議と稟議で行われます。
スタートアップのあなたは、その場にいません。
では、誰があなたの提案を語るのか。
目の前の担当者です。
担当者が上司に説明し、関係部門を回り、稟議を書き、質問に答える。
つまり、商談相手はあなたの説得対象ではなく、社内であなたの代わりに戦ってくれる人なのです。
この視点の転換が、すべてを変えます。
商談の目的は、相手を打ち負かすことでも、感心させることでもありません。
戦ってくれる人を増やし、その人が社内で勝てる材料を渡すことです。
担当者は、あなたの資料を作り直している
受け入れ側にいた者として、スタートアップの方々にぜひ知ってほしい実態があります。
あなたが渡した美しいピッチ資料は、そのままでは社内で使えません。
稟議や社内説明には、その会社の観点と形式があります。担当者は、あなたの資料を材料に、社内向けの説明資料を夜な夜な作り直しています。この見えない労働が重いほど、担当者の熱意はすり減り、案件は失速します。
逆に言えば、ここを支援できるスタートアップは、担当者にとって別格にありがたい存在になります。
私が大企業側で実際にありがたかったのは、費用対効果や他社での実績といった、稟議で必ず問われる観点の材料を、こちらがそのまま貼り込める形で先回りして渡してくれる会社でした。そういう相手の案件は、社内でも通しやすかったです。
担当者の社内営業をどう支援するかは、Udemy講座で扱う5つのTipsの中でも、私が最も重要だと考えているものです。
魔法の一言:「社内説明で困っている点はないですか」
では、明日から何をすればよいか。
まずは、次の打ち合わせで一言聞いてみてください。
「社内のご説明で、お困りの点はないですか」
この一言には、三つの効果があります。
第一に、担当者が社内のどの関門で苦労しているかという、外からは見えない情報が手に入ります。
第二に、支援すべき材料(不足しているデータ、答えられていない質問)が具体的に分かります。
第三に、そして最も大きいのは、この会社は私の社内での立場まで考えてくれる、という信頼が生まれることです。
売り込みの言葉を尽くすより、この一言の方が案件を前に進める。
私は両側の経験から、そう断言できます。
戦ってくれる人は、一人に絞らない
この考え方には、続きがあります。
戦ってくれる人を、一人に依存させないことです。
担当者一人だけが推進者の案件は、その人の異動や多忙で簡単に止まります。支援先のスタートアップでも、相手側の役員の異動ひとつで案件が白紙に戻った例を見てきました。
私が大企業側で見てきた息の長い共創は、複数の部門・複数の階層に、この案件を進めたい人がいる案件でした。現場の担当者、その上司、隣の部門の関心者、そして決裁層のスポンサー。とりわけ見落とされがちなのが、実際に導入を決める事業部門の当事者です。窓口の部門がどれだけ前向きでも、その人が味方になっていなければ、稟議は最後の関門で止まります。
旗を持つ人が複数いれば、一人が動けなくなっても案件は生き続けます。
スタートアップの側からできることは、接点を意識的に広げることです。
定例報告に担当者の上司も招く。成果の共有会に導入部門の人を呼んでもらう。「御社の中で、この取り組みに関心を持ちそうな方は他にいらっしゃいますか」と聞く。
一つひとつは小さな動きですが、積み重なると、あなたの案件は「◯◯さんの案件」から「うちの会社の取り組み」へと育っていきます。
そうなったとき、共創は初めて、個人の熱意ではなく組織の意思で動き始めるのです。
おわりに
大企業との商談は、目の前の相手との勝負ではなく、その向こうの会議室との勝負です。そして、その会議室であなたの旗を掲げてくれるのは、目の前の担当者です。
説得の相手ではなく、支援すべき戦友。
この視点で次の商談に臨むと、話す内容も、渡す資料も、自然と変わっていくはずです。
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本稿でご紹介した、社内で戦ってくれる人への支援は、Udemy講座「スタートアップのための大企業共創の作法」〜スピードと秩序の橋渡しが、共創を成功させる〜で扱う、共創を前に進める5つのTipsを貫く原理です。
講座では7つのセクションで、決裁層のスポンサーと導入部門の当事者の見つけ方から、稟議に使える材料の渡し方、小さなPoCの設計、定例報告まで具体的に体系化しています。
商談の次の一手を変えたい方は、ぜひご受講ください。
本稿は持ち込む側に向けて書いていますが、受け入れる側で共創を担当されている方には、鏡像の講座「大企業のためのスタートアップ共創推進の勘所」〜止まった共創案件を、社内から動かす〜をご用意しています。同じすれ違いを、社内を動かす側から扱っています。

