はじめに
「初回の商談は大盛り上がりだった。なのに、PoC(実証実験)の話になった途端に進まなくなった」
「稟議の結果待ちと言われたまま、3ヶ月音沙汰がない」
大企業との共創に取り組むスタートアップの経営者やBizDevの方から、こうした停滞のご相談を数多くいただきます。
私は大手電機メーカーで全社のDX推進・新規事業開発、オープンイノベーション推進を担当し、スタートアップを受け入れる側の実務を経験しました。
その後に自ら起業し、大企業にアプローチする側の苦労も味わっています。
両側を見てきた立場から言えるのは、この停滞の原因の多くは、プロダクトの良し悪しではないということです。
共創が止まる本当の理由と、そこから抜け出す視点をお話しします。
同じプロダクト力でも、伸びる会社と消耗する会社に分かれる
まず、私が両側の現場で見てきた事実からです。
同じくらいのプロダクト力を持つスタートアップでも、大企業との共創で一気に伸びる会社と、商談とPoCを1年繰り返して何も残らない会社に、はっきり分かれます。
伸びる会社は、販路と信用を計画的に取りに行きます。1社目の実績が2社目の商談を開き、資金調達の場でもその実績が評価される。
消耗する会社は、目の前の受注額だけを追いかけます。盛り上がる商談と終わらないPoCに時間とリソースを吸われ、気づけば1年が過ぎている。
この差を運や担当者ガチャで説明する方もいます。
両側を経験した私の実感は違います。
差を生んでいるのは、共創の進め方というスキルです。
スキルである以上、学べば再現できます。
悪意なし×悪意なしでも、共創は止まる
では、進め方の何が停滞を生むのか。
核心は、両者の文化とスピードの違いが生むすれ違いです。
スタートアップ側の言い分は「大企業は意思決定が遅い」。
大企業側の言い分は「スタートアップは詰めが甘い」。
私はこの両方の台詞を、それぞれの現場で何度も聞いてきました。
そして断言できるのは、どちらの感覚にも、それぞれの組織にとっての合理性があるということです。
大企業の慎重さは、何万人の雇用と何十年の顧客責任を守るために組み上がった仕組みです。
スタートアップの速度は、限られた資源で生き残るための最適解です。
悪意なし×悪意なし。
それでも共創は止まる。
ここが共創の一番厄介なところであり、同時に希望でもあります。すれ違いが仕組みから生まれるなら、仕組みを知れば設計で防げるからです。
相手を責める前に、すれ違いを生む仕組みを疑う。
この転換が、すべての出発点になります。
自社診断:止まっている案件の症状を言語化にする
進め方に原因があるかどうかは、止まっている案件の症状を言語化すると見えてきます。
たとえば、担当者は乗り気なのにその上が動かないなら、決裁層への働きかけが設計されていない可能性があります。PoCの話は出るのに範囲がいつまでも決まらないなら、提案の粒度が相手の意思決定に合っていないのかもしれません。窓口の部門は前向きなのに、導入する部門の話が一向に出てこないなら、話している相手が違う疑いがあります。順調だったのに契約段階で急停止したなら、手続きのすり合わせが遅かったのでしょう。
注目してほしいのは、どの症状もプロダクトの機能不足とは別の次元にあることです。
機能を追加しても、稟議は速くなりません。
症状を書き出してみて、その多くが相手の組織の中で起きているなら、あなたの会社に足りないのはプロダクト改善ではなく、相手の仕組みの理解と、それに合わせた進め方の設計です。
診断が変われば、投資すべき場所も変わります。
プロダクトを磨くのと同じ優先度で、進め方を学ぶ
スタートアップは、プロダクトの改善には驚くほどの熱量を注ぎます。
それなのに、共創の進め方は場数でなんとなく、のままの会社が大半です。
もったいない、と私は思います。
商談がPoCで止まるたびに失われているのは、数ヶ月という時間です。シード〜シリーズAのスタートアップにとって、数ヶ月はランウェイそのものです。プロダクトと同じ優先度で進め方を学ぶ価値は、十分にあります。
大企業の仕組みの読み方、自分たちの見られ方、前に進める作法。この全体はUdemy講座で体系としてお渡ししていますが、まずは、原因はプロダクトではなく進め方かもしれないという仮説を、自社の止まっている案件に当ててみてください。
おわりに
商談が盛り上がるのは、あなたのプロダクトに魅力がある証拠です。問題はその先、大企業という組織の中を旅する区間にあります。
この区間は、才能や運ではなく、学べば再現できるスキルの領域です。
止まっている案件を嘆く前に、進め方を疑ってみる。
そこから、共創は動き始めます。
Udemy講座のご案内
本稿でご紹介した進め方のスキルは、Udemy講座「スタートアップのための大企業共創の作法」〜スピードと秩序の橋渡しが、共創を成功させる〜で体系的にお渡ししています。
7つのセクションで、共創を成長戦略として設計し直すところから、大企業の7つの文化特性、誤解を防ぐ翻訳の型、前に進める5つのTipsと落とし穴の回避までを扱っています。
明日の商談から使える形で身につけたい方は、ぜひご受講ください。

