はじめに
「新規事業担当への異動を打診されたが、正直、キャリアとして不安だ」
「周囲からは『大変な部署に行くね』と同情された」
こうした声を、私は何度も聞いてきました。
成功確率は低く、評価は上がりにくく、既存事業の出世コースからは外れて見える。
新規事業開発がしんどい仕事なのは、その通りです。
新規事業担当を”罰ゲーム”のように語る空気は、残念ながら多くの会社に存在します。
私はこれまで、大手電機メーカーで新規事業を推進し、独立後は支援者として数多くの担当者のキャリアの変遷を見てきました。
その経験から、はっきり申し上げます。
新規事業の経験は、向き合い方次第で、これからのキャリアで最も希少性の高い資産になります。
罰ゲームにするか武器にするかは、配属ではなく、過ごし方で決まるのです。
なぜ「希少な資産」と言えるのか
理由は単純で、経験者が構造的に少ないからです。
新規事業は、アイデア創出から検証、事業化へとゲートで絞り込まれながら進みます。この構造上、初期フェーズを自らやり切った人材ですら社内の数%であり、事業化やその先まで経験した人材はさらに希少です。私が大企業社員1,000人への調査をもとに登壇した際も、このデータは参加企業の共通認識として強く頷かれるところでした。
一方で、需要は増え続けています。
既存事業の成熟に直面する多くの企業が、新規事業人材を求めて社内公募や外部採用を繰り返しています。
供給が構造的に少なく、需要が増え続ける。
市場の言葉で言えば、これほど価値の上がりやすいポジションはありません。
「出世コースから外れた」ように見える場所が、実は最も人材価値の高まる場所になっている。
これが、罰ゲーム論の裏側にある実態です。
私が新任者向けのUdemy講座を作ったのも、この希少な経験を、確かな資産にする人を増やしたいと考えたからです。
同じ配属でも、資産になる人とならない人がいる
ただし、新規事業部門に在籍しただけで資産が貯まるわけではありません。
同じ数年間を過ごしても、経験が資産になる人とならない人には、明確な違いがあります。
資産にならない過ごし方とは、調査と資料作成に終始することです。
市場レポートをまとめ、企画書を磨き、審査に備える。それだけで数年が過ぎると、残るのは「新規事業部門にいた」という職歴だけです。
資産になる過ごし方の核心は、「仮説を自分で立てて、自分で検証をやり切る」ことです。
顧客に会いに行き、断られ、仮説を修正し、また確かめる。この一連のサイクルを自分の手で回した経験こそが、次の案件でも、別の会社でも通用する再現性のある力になります。極端に言えば、審査に通らなかった案件の経験でも構いません。フェーズをどこまで深く歩いたかが経験の本質であり、ゲートの通過はその時々の結果にすぎないからです。
だからこそ、もしあなたが新規事業担当になったら、企画書の完成度を競う前に、検証の打席に立つ回数を最大化してください。
そして、何を仮説とし、どう検証し、何を学んだかを、言葉にして記録してください。
言語化された経験だけが、持ち運べる資産になります。
記録の習慣は、大がかりなものでなくて構いません。
週の終わりに15分、「今週確かめた仮説」「分かったこと」「来週の打ち手」の三行を書き溜めるだけで十分です。この三行メモは、半年後には評価面談や異動面談で語れる実績のリストになり、数年後には、あなたにしか書けない実践知の束になります。
私自身、現場で書き溜めた言葉が、後の研修や執筆の土台になっていることを実感しています。
経験は、会社にとっての資産にもなる
もう一つ、視野を広げておきたいことがあります。
新規事業の経験者は、本人のキャリアだけでなく、組織の未来にとっての資産でもあるということです。
新規事業を経験した人材が既存事業に戻ると、顧客起点の発想や仮説検証の習慣を持ち込み、既存組織の変革の推進役になっていきます。挑戦した人が良いキャリアを歩む姿は、次の挑戦者を生む何よりのメッセージにもなります。
私が伴走してきた企業でも、継続的にイノベーションが生まれる組織には、必ずこの人材の好循環がありました。
あなたの挑戦は、あなた一人のものではないのです。
おわりに
新規事業担当という打診は、罰ゲームの通告ではなく、希少な経験への招待状です。
ただし、その招待状の価値は、検証の打席に立ち、経験を言語化した人にだけ支払われます。
もし今、不安の中で着任を迎えようとしているなら、どうか思い出してください。
数年後のあなたの市場価値を決めるのは、配属先の名前ではなく、そこで回した検証サイクルの数なのです。
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