生成AIでアイデア出しをすると何が起きるか:2つの実験が示す”そのまま”と”思考の型”の差

はじめに

新規事業の担当者が、生成AIに出させたアイデアを30個並べて持ってくる。

この1年、支援先でよく見る光景です。並んだ案はどれも整っていて、どれも似ている。そして、どうしてこの案なのかと聞くと、なぜか説明が止まる。これは、担当者が怠けた結果ではありません。熱心にAIを使った結果、こうなっているのです。

私はこれまで、大手電機メーカーなどでの新規事業推進や独立後の伴走支援・ハンズオン支援を通じて数多くの事業開発に関わり、現在は国立大学で研究者の事業化支援にも携わっています。研究者と一緒に仕事をするようになって身についた習慣の一つが、現場で得た実践の勘所を、学術研究で確かめることです。

その習慣で読んだ2本の研究が、冒頭の光景に正面から向き合っていました。どちらもデザイン研究の学術誌 Design Science に今年掲載され、誰でも全文を読めます。1本は生成AIを”そのまま”使わせた実験、もう1本は発想手法という”思考の型”に載せて使わせた実験です。

結論が食い違っているように見えて、並べて読むと1つのことを言っています。今回はその2本を、大企業の新規事業の現場に置き換えて読みます。

研究1:生成AIを”そのまま”使うと、案は変わらず自信が下がる

Krajcer らの研究(2026年5月)は、UXデザインを学ぶ学生35名に、まずAIなしで3案、その後ChatGPTありで3案のコンセプトを作らせました。出てきた案すべてを、実務経験5年以上のデザイナー2名が、どちらの条件で作られたかを伏せて採点しています。

結果は、成果物の創造性に統計的な差はなし。差が出たのは作った本人の内面でした。ChatGPTを使ったときは、自分の判断への自信、課題への関与度、創造的な刺激、没頭感、エネルギーがいずれも下がっていました。そして、行動も変わりました。生成された文章を最小限の修正だけで転記した人が8名、スケッチやマインドマップといった手を動かす手法は減り、インタビューでは自分が提出した案の要点を説明できない人が出ています。

著者らは、AIへの依存が本人を受け身にし、関与度が減り、自分の案だという感覚が薄れ、自信が落ち、さらにAIに頼る、という循環を仮説として示しています(著者自身が推測と断っています)。

ただし、この論文の限界は本文にはっきりと書かれています。被験者は学生で、実務家ではない。期間は2週間の宿題で、AIなしを先、AIありを後という順序が固定されていた。落ちたのは短期の自信であって、長期の変化は測っていない、ということです。

研究2:生成AIを”思考の型”に載せると、案の新規性が上がる

Kokate と Onkar の研究(2026年1月)も学生が対象で、24名を2人1組に分け、30分でアイデアを出させました。違うのは使い方です。対照群は方法の指定なし、ChatGPTやWikipediaは自由に使ってよい。実験群はALIAという支援ツールを通し、6分・8分・6分・8分の4段階で進めます。

4段階は、問題の同定(どうすれば〜できるか、の形で問いを揃える)、探索(議論の要約からキーワードを広げる)、脱線(人になりきる・直接の類比・象徴・空想の4種の類比で、いったん問題から離れる)、対立の解消(相反する主張をぶつけて統合する)です。古典的な発想手法の構造に、AIを差し込んだ形です。AIは最終案を丸ごと引き受けるのではなく、問いや類比、アイデアの種、反対意見を出す役に回ります。

結果は、実務経験10年以上のデザイナー6名の採点で、実験群の新規性が有意に高く(5点満点で平均3.31対2.21)、質(実現可能性・実用性・有用性をまとめた評価)には有意差がありませんでした。対照群もChatGPTなどネット上の資源を自由に使えたうえで、新規性に差がついた。この点は見落とせません。

この論文の限界はこちらも明記されています。学生24名、テキストのみ、4段階のどれが結果を動かしたかを切り分ける分析はしていない、ということです。

筆者の読み:差はAIの性能ではなく、どこに置くかにある

ここからは私の解釈です。研究1でChatGPTが使われた場面は、最初から最終案を求める使い方でした。35名中30名がChatGPTに詳細なコンセプトの生成を求め、その際、自分たちの「どうすれば〜できるか」という問いやデザインブリーフを入力するケースが多く見られました。研究2では、AIは案を書かず、問いと類比と反論を出す係でした。研究1と研究2の差はAIの性能ではなく、AIをどの工程に、どの役割で置いたかにあります。

2本合わせて学生59名の実験室の話なので、大企業の担当者にそのまま当てはめることはできません。しかし、冒頭の光景と研究1の記述は、私が見ている限りほとんど重なります。案は整っているが、本人は説明できない。アイデアをブラッシュアップするために手を動かす工程そのものが、消えてしまっている。経験の浅い担当者ほど、この形に陥りやすいのです。逆に研究2の型は、支援先でアイデア発想セッションを回すときに私がやっていることとかなり近い形です。まずは問いを揃え、発散させ、一度問題から離れ、反論をぶつけて収束させる。AIはその途中の刺激役として置いています。

実務の手順:AIを途中に置く4段階と、3つの失敗条件

生成AIでアイデアの新しさを引き出す条件は、AIを発想の”最後”ではなく”途中”に置くことと考えます。手順は、研究2の4段階をそのまま借りられます。

①問い(どうすれば〜できるか)を揃える。
②AIにキーワードや周辺領域を広げさせる。
③AIに別業界の類比や、当事者になりきった視点を出させて、一度問題から離れる。
④AIに反対の立場を演じさせて、自分の案とぶつける。

案を書く工程は人が行います。

このうち④は、私が支援先の壁打ちで一番よく勧めている使い方です。AIに賛成させても何も進まない。反対役を演じさせて初めて、自分の案の弱い箇所が見えます。研究2は、その使い方が新規性の差として測れることを示してくれていると考えます。

失敗に陥りやすい条件は、研究1の行動記述から逆算できます。

  • 課題文を貼って最終案を頼んだとき
  • 出てきた文章を自分の言葉に置き換えずに資料へ写したとき
  • 最終案の要点を口頭で説明できない状態で会議に出したとき

3つ目は、生成AI活用の講座で私が納品ラインと呼んでいる基準と同じです。「AIがそう言っていたからです」は、社内で通ることはありません。

研究1の著者らは対策として、いつ自分が主導権を取り戻すかを自覚する訓練と、最終案ではなく抽象的な刺激を引き出す聞き方の習得を挙げています。これは、事務局が担当者に渡せる生成AI活用の指針にあたります。ツールの禁止ではなく、効果的に活用するための使い方の話です。

おわりに

成果物に差がないなら使っても同じ、ではありません。研究1が示したのは、成果物が同じでも、担い手の内面が削れてしまう可能性です。新規事業は、案を出した本人がその後、何年も説明し続ける仕事です。本人の理解と自信が削れる使い方は、案の質と関係なく、後々、本人に跳ね返ってきます。

先日のコラムで、AIに頼む前に考えの肝を自分で書く型を紹介しました。今回の2本は、その型を発想の工程に当てはめたときに何が起きるかを、実験の数字で見せてくれています。生成AIを”そのまま”使うか、”思考の型”に載せるか。その一点で結果が分かれるのなら、事務局が整えるべきはツールではなく、考え方と手順です。

本稿における研究の読み解きと実務への翻訳は筆者によるものであり、原著者の意図や解釈と一致するとは限りません。判断の前に原典をご確認ください。

出典


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