情報収集から始めない:市場機会探索は「問いの設計」で決まる

はじめに

「調査レポートは山ほど集めた。業界動向もまとめた。でも、事業テーマが一向に決まらない」

市場機会の探索を任されたチームから、よくお聞きする悩みです。

分厚い調査資料と、空欄のままのテーマ候補リスト。

この組み合わせには、はっきりとした原因があります。

私はこれまで、大手電機メーカーでの新規事業推進や独立後の伴走支援・ハンズオン支援を通じて、数多くのテーマ探索の現場に立ち会ってきました。

うまくいかない探索に共通するのは、能力不足でも情報不足でもありません。
“問い”を設計する前に、情報収集を始めてしまっていることです。

本稿では、市場機会探索の成否を分ける「問いの設計」についてご紹介します。

問いのない情報収集は「調べただけ」で終わる

なぜ、情報を集めるほどテーマが決まらなくなるのでしょうか。

問いがないまま情報を集めると、すべての情報が同じ重さに見えます。生成AIも脱炭素も高齢化も人手不足も、どれも「重要そうなトレンド」です。取捨選択の基準がないため、資料は増え続け、「で、うちは何をやるのか」という肝心の議論には、いつまでも入れません。

結果として、調査は網羅的で立派なのに、意思決定には何も寄与しない。
私はこの状態を「調べただけ」と呼んでいます。

支援先でこの状態に出会ったとき、私が最初にお聞きするのは「その調査は、何を判断するために行ったのですか」という質問です。

答えに窮するチームは多いのですが、責められるべきことではありません。「まず市場を調べよう」というのは、一見まっとうな進め方に見えるからです。

しかし探索の順番は逆なのです。
情報が問いに答えるのであって、情報が問いを生んでくれるわけではありません。

良い問いは「自社との接点」を含んでいる

では、どんな問いを立てればよいのでしょうか。

ポイントは、世の中の変化と自社との接点を問いに織り込むことです。

たとえば、「今後伸びる市場はどこか」という問いは、広すぎて情報の海に飲まれます。

これを「当社の既存顧客に、今後5年で大きな影響を与える変化は何か」と設計し直すと、見るべき情報が一気に絞られます。既存顧客の業界、その顧客の顧客、その業務プロセス。調査の焦点が定まり、集めた情報が判断につながり始めます。

同じように、「当社のアセットが、新しい価値に変わる可能性のある変化は何か」という問いも有効です。

自社の技術・データ・チャネルといったアセットを先に棚卸ししたうえで、「この資産の価値を高める外部変化/損なう外部変化は何か」と問う。こうすると、トレンド情報が「自社にとっての機会と脅威」という文脈で読めるようになります。

問いの設計とは、言い換えれば「何を判断するための探索なのか」を先に決めることです。

判断につながらない情報は、どれほど興味深くても、今回の探索では脇に置く。

この規律が、探索のスピードと質を同時に高めます。

問いは、チームの共有物にする

もう一つ実務上大切なのは、設計した問いをチームで共有し、明文化しておくことです。

テーマ探索は数週間から数か月に及ぶ活動です。その間、メンバーはそれぞれ情報に触れ、それぞれの関心に引っ張られていきます。

問いが明文化されていないチームでは、中間報告の場で「面白い情報」の発表会が始まり、議論が発散します。
問いが壁に貼ってあるチームでは、「この情報は、私たちの問いにどう答えるのか」という規律が働き、議論が収束に向かいます。

私が伴走するときは、探索キックオフの場で、問いを2〜3個に絞って合意することから始めます。問いが多すぎるのも、ないのと同じだからです。

そして中間レビューでは、情報の量ではなく「問いへの答えがどこまで見えたか」を確認します。

この型に沿うだけで、探索活動の手応えは大きく変わります。

設計した問いの良し悪しは、三つの基準で点検できます。

第一に、答えが出たら次の行動が決まるか。
「面白い発見」で終わる問いは、まだ問いの形をした好奇心です。

第二に、期限を切れるか。
「いつか分かるといい」ではなく「4週間で仮の答えを出す」と言える粒度まで具体化します。

第三に、自社固有か。
どの会社が問うても同じ答えになる問いからは、自社固有の機会は見えてきません。

三つのうちどれかが欠けていたら、情報収集に入る前に、問いを磨き直すサインです。

おわりに

市場機会探索の最初の成果物は、調査レポートではなく、磨かれた問いです。

「当社の顧客に影響を与える変化は何か」
「当社のアセットが新しい価値に変わる変化は何か」。

この問いを持って情報に向かえば、同じ調査時間から、まったく違う濃度の答えが返ってきます。

情報収集を始める前に、まず問いを書き出す。

今日から試していただける、探索の最重要習慣です。


Udemy講座のご案内

本稿でご紹介した「問いの設計」は、市場機会探索の最初の一歩です。

この続きとして、Udemy講座「新規事業のアイデア発想法:市場機会探索型」では、探索の問いの設計から事業テーマ仮説の言語化までの5ステップ全体を、架空企業を題材にした演習で手を動かしながら習得いただけます。

本稿の考え方をご自身のテーマ探索に落とし込みたい方は、ぜひご受講ください。