板挟みは「対立」ではなく「ズレ」:説得の応酬から抜け出す方法

はじめに

経営からは「もっと大胆に」と言われ、現場からは「現実的に頼む」と言われる。

事業部門には「既存顧客に迷惑をかけるな」と釘を刺され、それでも成果は求められる。

企業内新規事業の担当者は、こうした”板挟み”の中で日々奮闘されています。

私自身、大手電機メーカーなどで新規事業推進を担っていた頃、まさにこの板挟みの真ん中にいました。

そして独立後、支援者としてさまざまな企業の板挟みを外から見るようになって、はっきりと気づいたことがあります。

板挟みを「対立」として扱っている限り出口はなく、「ズレ」として扱った瞬間に出口が見え始めるということです。

本稿では、この捉え直しの方法を具体的にご紹介します。

「誰が反対しているか」に時間を使うと消耗する

板挟みの渦中にいると、思考は自然と「人」に向かいます。

「あの役員が慎重派だから」

「あの部長が首を縦に振らないから」

そして打ち手も人に向かいます。
根回しの順番を変え、資料の枕詞を工夫し、説得の場を重ねる。

もちろん、社内の合意形成にこうした配慮は必要です。
しかし、説得の応酬だけで事態が好転することは、私の経験上ほとんどありません。

相手には相手の役割と正しさがあるため、説得すればするほど、相手も自分の立場を守る理屈を強化してくるからです。気がつけば、論点は事業の中身から離れ、「どちらの言い分が通るか」の勝負になっています。

これが最も消耗するパターンです。

板挟みの正体は、期待値とWhy Companyの「ズレ」

視点を変えてみましょう。

板挟みとは、あなたと誰かの対立ではなく、”会社の期待値”と”この事業の意義づけ”のどこかが噛み合っていない状態、つまりズレのシグナルです。

たとえば「経営は大胆さを求めるのに、投資には慎重」という板挟み。

これは経営が意地悪なのではなく、「期待する事業規模」と「許容するリスク」が言語化されていないズレです。であれば、打ち手は説得ではなく、「どの規模を狙い、そのためにどこまでのリスクを取るか」を仮置きして提示し、期待値を言語化させることです。

「事業部門が協力してくれない」という板挟みは、「全社にとっての新規事業の意義」と「事業部門にとっての意味」がつながっていないズレです。打ち手は、”なぜ当社がやるのか”(Why Company)を、事業部門の資産や顧客との接続として語り直すことです。

ズレとして見ると、反対の論点は一つずつ解けるようになります。

対立として見ている間は「敵が多い」としか感じられなかった状況が、ズレとして見ると「言語化されていない論点のリスト」に変わるのです。

こうしたズレの見つけ方は、Udemy講座でも中心テーマとして扱っていますが、本稿ではまず、今日から使える考え方の骨格をご紹介します。

ズレを解くための実務:論点を紙に落とす

実務としてお勧めしたいのは、板挟みを感じたときに、「誰と誰の間で」「何と何がズレているのか」を紙に書き出すことです。

私が推進側にいたとき、グループ各社との温度差に悩んだ時期がありました。

そのとき効いたのは、各社に推進責任者を置いてもらい、定期的に課題や悩みを共有する場をつくったことです。

振り返れば、あれは「ズレを言語化するインフラ」を整えた取り組みでした。

対話の場に出てくる不満や反対を、人格の衝突ではなく論点のズレとして一覧化し、一つずつ潰していく。この地道な作業が、グループ全体の推進力を少しずつ高めていきました。

書き出す際は、簡単な表にすることをお勧めします。列は五つ。「関係者」「その人・部門の期待」「期待の背景にある役割・事情」「自分たちの計画とのズレ」「次の一手」です。

たとえば「経営企画/早期の収益貢献を期待/中期計画の数字に責任を持つ立場/検証段階なので売上はまだ立たない/検証フェーズの成果指標を提案し、合意を取る」という一行が書ければ、その板挟みはもう半分解けています。

書けない行があれば、それは相手の期待をまだ理解できていないというサインであり、次にやるべきことは資料づくりではなく、相手の話を聞きに行くことです。

板挟みは、なくなりません。

新規事業とは、会社の中に新しい物差しを持ち込む仕事であり、既存の物差しとのズレは必ず生じるからです。

だからこそ、ズレを恐れるのではなく、ズレを見つけて言語化する役割こそが推進者の仕事だと捉えていただきたいのです。

おわりに

板挟みは、あなたが無能だから生じているのではありません。
むしろ、新しい物差しと古い物差しの境目に立っている証拠です。

「誰が敵か」ではなく「何がズレているか」。

この問いの切り替え一つで、消耗戦は設計作業に変わります。

板挟みの真ん中は、実は会社を変えられる特等席なのだと、私は思っています。


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