進まないのは、あなたのせいではない:企業内新規事業を阻む”構造”の正体

はじめに

「進め方が悪いのだろうか」

「自分の説明が足りないのだろうか」

「そもそも自分の力量が足りないのではないか」

企業内で新規事業を任された方から、こうした言葉をお聞きすることがよくあります。

新規事業に真剣に向き合っている人ほど、うまく進まない原因を自分の中に探してしまうのです。

私はこれまで、大手電機メーカーなどで新規事業提案制度の立ち上げ・運営に携わり、多数の事業のタネと向き合ってきました。独立後も、さまざまな企業の新規事業に伴走しています。

その経験から、まずお伝えしたいことがあります。

企業内新規事業が進みにくいのは、多くの場合、個人の能力の問題ではなく、”構造”の問題だということです。

本稿では、その構造の正体を分解し、明日から視点をどう切り替えればよいかをご紹介します。

真剣な人ほど、自分を疑ってしまう

新規事業の担当者や事務局の方は、たいてい社内で「期待されて」その役割に就いています。

だからこそ、事業部門から協力を断られたり、経営会議で「まだ早い」と差し戻されたりすると、「期待に応えられていない自分」を責めてしまいがちです。

しかし、私が制度運営や伴走支援の現場で見てきた限り、同じ壁にぶつかっていない推進者はほとんどいません。優秀な方でも、経験豊富な方でも、ほぼ例外なく同じ場所でつまずきます。

全員が同じ場所でつまずくなら、それは個人の問題ではなく、構造の問題と考えるのが自然です。

実際、私が登壇したセミナーで紹介した大企業社員1,000人への調査でも、新規事業を最後まで推進した経験を持つ人材は、どの企業でもごく少数でした。

これは新規事業がゲートで絞り込まれていく以上、構造的にそうなるのです。

つまり「社内に前例も先輩もいない中で、正解のない仕事を進めている」のが、皆さまの置かれた標準的な状況だということです。

こうした構造の全体像は、Udemyの入門講座でも最初のテーマとして扱っていますが、本稿ではまず、その骨格をご紹介します。

構造の中身:三つの要素

では、その構造とは何でしょうか。

私は大きく三つの要素で説明しています。

第一に、”経験者の不在”です。

既存事業であれば、上司も関係部門も仕事の進め方を知っており、判断に迷えば前例があります。しかし、新規事業にはそれがありません。判断を仰ぐ相手も手探りなのですから、意思決定が遅く、揺れるのは当然です。

第二に、”複数の正しさ”の存在です。

事業部門は既存事業との切り分けを気にし、経営は投資判断として「まだ早い」と言い、管理部門はセキュリティや品質保証の基準を守ろうとします。それぞれの言い分は、その部門の役割としては正しいのです。正しさ同士がぶつかるからこそ、調整が難航するのです。

第三に、”評価基準のズレ”です。

会社の仕組みの多くは既存事業のために設計されています。売上・利益・計画達成率といった物差しで測られると、検証段階の新規事業は常に「成績の悪い事業」に見えてしまいます。担当者がどれほど優れた検証をしても、物差しが合っていなければ評価されにくいのです。

構造として捉え直すと、打ち手が変わる

「自分のせいだ」と捉えている間は、打ち手が「もっと頑張る」「もっと丁寧に説明する」に偏ります。しかし構造の問題だと捉え直すと、打ち手は変わります。

たとえば、経験者の不在に対しては、一人で抱え込まず、社内外から知見を借りて”ミッシングパーツ”を補完するという打ち手が取れます。

複数の正しさに対しては、「誰が反対しているか」ではなく「どの正しさ同士がぶつかっているのか」を特定し、相手の役割に沿った材料を用意するという打ち手が取れます。

評価基準のズレに対しては、検証段階に見合った評価軸を、上司や経営とあらかじめすり合わせておくという打ち手が取れます。

私自身、推進側に立っていたとき、この切り替えに救われました。

うまくいかない理由を構造で説明できるようになると、上司や経営陣との会話が「なぜ進まないのか」という詰問の繰り返しから、「この構造をどう乗り越えるか」の相談に変わっていったのです。

構造の言語化は、自分を守るためではなく、関係者を同じ壇上に乗せるために効きます。

最初の一歩として、紙を一枚用意して、次の三つを書き出してみることをお勧めします。

一つ目は、「今、誰の判断が揺れているか。その人はこの種の判断の経験があるか」

二つ目は、「今ぶつかっている反対は、どの部門の、どんな役割上の正しさから来ているか」

三つ目は、「自分たちは今、どんな物差しで測られているか。それは検証段階に合った物差しか」

この三つが埋まると、漠然とした「進まない」という感覚が、対処可能な論点のリストに変わります。そしてこの紙は、上司との1on1や経営への報告の場で、そのまま議論のたたき台として使えます。

感情を挟まずに現状を共有できる道具を持つことが、板挟みの中で冷静さを保つ支えになるのです。

おわりに

企業内新規事業が進みにくいのは、あなたの力量不足ではなく、経験者の不在・複数の正しさ・評価基準のズレという構造によるものです。

そして構造は、言語化できれば対処できます。

自分を疑う時間を、構造を読み解く時間に振り向けること。
それが、板挟みの中で消耗しないための第一歩だと私は考えています。

同じ壁に向き合う仲間は、社内外にたくさんいます。

どうか一人で抱え込まず、構造を味方につけて進んでいってください。


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