はじめに
「生成AIに新規事業のアイデアを出させてみたが、どこかで見たような案ばかりだった」
「市場分析を頼んだら、もっともらしいが薄い答えが返ってきた」
新規事業の現場で生成AIを試した方から、こうした感想をよくお聞きします。
期待して使ってみたものの、「結局、使えないな」と距離を置いてしまった方も多いのではないでしょうか。
私はこれまで、大手電機メーカーなどでの新規事業推進と、独立後の伴走支援・ハンズオン支援を通じて数多くの事業開発に関わり、現在は調査や提案資料などの制作に生成AIを日常的に使っています。
その経験から申し上げると、「それらしいが薄い」という現象には、はっきりとした構造的な原因があります。
そして原因は、AIの性能ではありません。
本稿では、この”薄さ”の正体と、抜け出すための考え方をご紹介します。
「新規事業のアイデアを10個出して」が薄くなる構造
薄い出力が返ってくるときの典型的な指示は、こういうものです。
「新規事業のアイデアを10個出して」
「この市場の動向をまとめて」
一見、何も問題がないように見えます。
しかし、ここで思い出していただきたいのは、AIはあなたの会社のことも、顧客のことも、これまでの経緯も知らないという事実です。
AIは、入力に含まれない情報を持ちません。
入力が一般的なら、出力は世の中の情報の”平均値”に近づきます。それらしいけれど、自社の文脈も現場の実感も入っていない。読み手が薄いと感じるのは当然なのです。
つまり、出力の質は入力の質で決まります。
AIの出力が薄いと感じたら、AIを疑う前に、自分の入力を疑う。
これが生成AI活用の出発点です。
「良い答え」は、AIの中ではなくあなたの中にある
では、入力に何を足せばよいのでしょうか。
情報量を増やせばよい、というだけでは足りません。
私が実務で確信しているのは、成果物の肝になる”主張”は人が持っている、ということです。
あなたが顧客訪問で拾った何気ない一言、社内調整で肌身に感じた抵抗の理由、過去の失敗から学んだ勘所。こうした実践知は、世界中のテキストを学習したAIの中にも存在しません。
あなたの中にしかないのです。
だからAIとの正しい付き合い方は、「答えを聞く」ではなく「自分の考えを展開させる」になります。
考えの肝を人が示し、その肉付け・整理・表現をAIに委ねる。
この向きが逆転して、肝ごとAIに任せてしまったとき、成果物は誰にでも書ける平均値に落ちていきます。こうした使い方の型は、Udemy講座の心臓部として扱っているテーマですが、本稿ではまず、この「向き」の感覚をつかんでいただければ十分です。
薄い成果物は、社内で必ず見抜かれる
もう一つ、企業内新規事業ならではの注意点があります。
読み手の存在です。
新規事業の資料の読み手は、経営層や事務局です。彼らは毎週のように多くの提案書・報告書を読んでいます。
私も毎年200件以上の事業のタネと向き合いましたが、書き手の思考が通っていない資料は、数分で分かります。
生成AIの普及後、この「見抜く力」はさらに敏感になっています。それらしい文章はもう珍しくないからこそ、固有の文脈と実践知が入っているかどうかが、これまで以上に評価を分けるのです。
AIで資料を量産できる時代に価値が上がるのは、皮肉なことに、AIには書けないもの、つまり現場で拾った事実と、自分の頭で立てた仮説です。
まず試す一手:同じ依頼を「文脈つき」でやり直す
考え方を実感していただくために、今日できる小さな実験を一つご提案します。
過去に「薄い」と感じたAIへの依頼を、一つ選んでください。そして同じ依頼を、三つの情報を足してやり直してみるのです。
第一に、背景。
誰向けの、何のための成果物か。
第二に、自分の見立て。
「私はこの市場の本質的な課題は◯◯だと考えている」という仮説の一文。
第三に、素材。
手元にある顧客の声や過去の資料の抜粋です。
同じAI、同じテーマでも、返ってくるものの解像度がまるで違うことに驚かれるはずです。
この落差こそが、「出力の質は入力の質」の体感です。そして、足した三つの情報はすべて、あなたの中にあったものです。
AIが進化したのではなく、あなたがAIに”自分”を渡しただけ。
この一度の体験が、AIとの付き合い方を変える最短の入り口になります。
おわりに
「それらしいが薄い」は、AIの限界ではなく、使い方が発しているサインです。
入力に自分の考えの肝を込められるようになると、同じAIが、まるで違う仕事をするようになります。
生成AIを一度試して離れてしまった方こそ、「答えを聞く道具」から「考えを展開する道具」へと、位置づけを変えて再挑戦してみてください。
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