はじめに
「生成AIが伸びている。だから、当社も生成AIサービスを作ろう」
この論法に、違和感なくうなずいてしまった経験はないでしょうか。
生成AIの部分は、脱炭素でも、ヘルスケアでも、宇宙でも構いません。
伸びている市場を見つけて、そこに向かって事業を企画する。
一見合理的なこの進め方には、実は大きな落とし穴があります。
私はこれまで、大手電機メーカーでの新規事業推進と独立後の伴走支援・ハンズオン支援を通じて、トレンド起点の企画が失速していく場面を数多く見てきました。
本稿では、なぜトレンドから直接アイデアを出してはいけないのか、そして間に何を挟むべきなのかをご説明します。
トレンド直結のアイデアが失速する三つの理由
第一に、顧客が不在になるからです。
「生成AIサービスを作ろう」という発想には、まだ誰の顔も浮かんでいません。技術やトレンドが主語で、顧客が目的語になっている。
この順番のまま企画を進めると、「作ったが、誰が使うのか分からない」というプロダクトができあがります。
第二に、差別化のしようがないからです。
トレンドは全員に見えています。「伸びている市場だから参入する」という理由は、競合他社の全員が同じ理由で参入してくることを意味します。
トレンドの真ん中には、必ず激戦区が待っています。
第三に、社内の議論が空転するからです。
トレンド起点の提案は、経営会議で「それで、当社は何で勝つのか」「顧客は誰なのか」という問いに答えられません。「市場は大きいのですが」を繰り返すうちに、案件の熱量が失われていきます。
私が制度運営で数多くの提案を見てきた中でも、トレンド名がタイトルに入っただけの企画は、検証段階に進んでも顧客課題が曖昧なままで、多くが立ち往生していました。
間に挟むべき一段:「顧客への影響」
では、トレンドは無視すべきかというと、もちろん違います。
外部環境の変化は、市場機会探索の重要な起点です。
問題は、トレンドから事業テーマへ一足飛びに進むことにあります。
間に挟むべき一段があります。
それが「顧客への影響」です。
「生成AIが伸びている」で止めずに、こう問いを進めます。
「この変化で、誰の業務が変わるのか」
「どの意思決定が変わるのか」
「その変化の中で、誰が何に困るのか」。
たとえば、生成AIの普及によって、ある業界の中堅企業では、若手の育成方法が根本から変わるかもしれません。ベテランの暗黙知に頼っていた業務の一部が自動化される一方、「AIの出力を判断できる人材をどう育てるか」という新しい悩みが生まれます。
ここまで落とし込めば、「生成AIサービス」という漠然とした企画は、「この業界のこの層の、この課題を解決する事業」という検証可能なテーマに変わります。
トレンドが答えなのではありません。
トレンドは、顧客の世界に変化を引き起こす”原因”であり、事業機会はその変化の中で困っている顧客のところに生まれるのです。
「トレンド×顧客への影響」で企画を点検する
実務的なチェック方法をご紹介します。
手元の事業テーマ案を、次の型に当てはめてみてください。
「〇〇という外部環境の変化により、〇〇な顧客が、〇〇という課題に直面している」。
この文の二つ目と三つ目の〇〇、つまり顧客と課題が具体的に埋まらないなら、そのテーマはまだトレンドの言い換えにすぎません。
逆に、ここが具体的に埋まっていれば、経営への説明も「市場が伸びているから」ではなく「この変化で、この顧客がすでに困り始めているから」という、はるかに強い論理になります。「なぜ今か」に、変化を根拠として答えられるからです。
なお、経営から「生成AIで何か考えてくれ」といったトレンド名指しの指示が降りてくることもあるでしょう。
このとき、指示をそのまま企画にするのではなく、問いに翻訳して返すことをお勧めします。
「生成AIという変化が、当社の顧客のどの業務を変えるかから探索します」
と受け直すのです。
指示の意図(この変化に乗り遅れたくない)は尊重しつつ、検証可能なテーマに落とす道筋を確保する。
トレンド指示への上手な受け方も、探索チームの大切な技術です。
おわりに
トレンドを追うことは、市場機会探索のゴールではなく、出発点です。
トレンドと事業テーマの間に「顧客への影響」という一段を挟む。
このひと手間が、あなたの企画を「流行に乗っただけの案」から「変化の必然に根ざした案」に変えてくれます。
伸びている市場の名前ではなく、変化の中で困っている顧客の顔で、事業を語っていきましょう。
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